耳の症状とは

耳は、外からの音を捉える「外耳」、音を振動として伝える「中耳」、そしてその振動を電気信号として脳に伝える「内耳」の3つの部分に分かれています。
さらに、内耳には三半規管という体のバランスを保つ器官も含まれているため、耳の不調は「聞こえ」に関わるだけでなく、「めまい」などの平衡感覚の障害にもつながります。

耳は非常に繊細な器官のため、かゆみや痛み、耳だれ、耳鳴り、つまり感など、さまざまな症状が現れることがあります。
これらは放置すると悪化したり、慢性化したりするおそれがあります。
また聴覚や平衡感覚に支障をきたし、生活の質を大きく落としてしまう危険もあります。
少しでも異常を感じたら、早めの受診をおすすめします。

耳の症状の種類

耳がかゆい

耳の中がムズムズする、無意識に触ってしまうということもあるでしょう。
それらは乾燥や耳掃除のし過ぎ、アレルギー、湿疹、真菌(カビ)などが原因になることがあります。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • 外耳(外耳道)炎(接触性皮膚炎、外耳道湿疹、細菌や真菌の感染、アレルギー等)
  • 耳垢の刺激によるかゆみ

など

耳が痛い

鋭い痛みやズキズキとした痛みを感じる場合、中耳や外耳に炎症があることが多くみられます。
お子様に多く、大人でも風邪や鼻炎の後に生じることがあります。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • 急性中耳炎(発熱を伴うことも)
  • 外耳(外耳道)炎(耳掃除による傷などが原因)
  • 耳管狭窄症
  • 鼓膜の損傷
  • 耳以外の疾患(頭痛、片頭痛、副鼻腔炎、顎関節症、歯の痛みからくるもの など)

など

耳だれが出る・耳が臭う

耳から液体が出る、においが気になるといった症状は、感染や鼓膜の損傷が原因であることがあります。
耳の中で細菌が増殖し、膿や分泌物が出る状態です。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • 急性または慢性中耳炎
  • 真珠腫性中耳炎(進行性の疾患)
    外耳(外耳道)炎

など

聞こえが悪い

音が聞こえづらい、テレビの音を大きくしがち、会話が聞き取りづらいといった症状があるときは、聴力に何らかの問題が起きている可能性があります。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • 耳垢塞栓(耳垢による詰まり)
  • 中耳炎(中耳に液体がたまるなど)
  • 加齢性難聴
  • 突発性難聴

など

耳鳴りがする

「キーン」「ジー」といった音が耳の中で鳴る感覚で、周囲には聞こえていません。
ストレスや疲労、加齢、突発的な内耳障害などが関係することがあります。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • メニエール病
  • 突発性難聴
  • 加齢性難聴

など

耳がつまる

「耳にふたをしたような感じ」「飛行機に乗ったときのような圧迫感」を覚える場合、耳管(じかん)の機能低下が考えられます。
風邪やアレルギー、気圧の変化も要因になります。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • 耳管狭窄症
  • 滲出性中耳炎
  • 耳垢塞栓

など

めまいがする

天井がぐるぐる回る、ふらつく、立ちくらみがするなどのめまいは、その多くが内耳の三半規管や前庭の異常が原因です。
耳の症状とあわせて現れる場合もあります。

考えられる疾患としては以下のようなものがあります。

  • メニエール病
  • 良性発作性頭位めまい症
  • 内耳炎(ウイルス性)

など

主な耳の疾患

中耳炎

急性中耳炎

症状

耳の痛みや発熱が突然起こり、特に小さなお子様に多く見られます。
進行すると耳だれが出たり、聞こえが悪くなったりします。
夜間に痛みが強まる傾向があり、乳幼児では泣き止まない、耳を触るなどの行動で気づかれることもあります。

原因

風邪や鼻炎などの上気道感染をきっかけに、鼻と耳をつなぐ耳管を通じて細菌やウイルスが中耳に侵入し、炎症を起こすことが原因です。
まだ耳管が短く、免疫力が発達していないことから、お子様に多く発症がみられます。

治療法

抗菌薬の内服や点耳薬による治療が中心で、痛み止めや解熱剤を併用することもあります。
重症例や膿が溜まりすぎた場合は、鼓膜切開で排膿を行う場合もあります。
治療が不十分だと滲出性中耳炎や慢性中耳炎へ移行することがあるため、早めの受診ときちんとした通院が大切です。

滲出性中耳炎

症状

耳の痛みが生じることはほとんどなく、聞こえにくさや耳のつまった感じ(耳閉感)が生じることがあります。
お子様では、呼びかけに反応が鈍い、テレビの音を大きくするなどの行動で、周囲が気づくことがあります。

原因

急性中耳炎の治りかけや、鼻炎・アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎に伴い、耳管の機能が低下し中耳に液体(滲出液)がたまることで起こります。
子どもの耳管は太く短く水平なため、特に起こりやすくなっています。

治療法

まずは鼻炎やアレルギーの治療をはじめとした内服薬による治療が基本となります。
長引く場合や再発を繰り返す場合は、鼓膜に小さなチューブを挿入し、液体を排出させる「鼓膜チューブ挿入術」が行われる場合もあります。

真珠腫性中耳炎

症状

慢性的な耳だれや、においを伴う耳だれが続いているときは、真珠腫性中耳炎が疑われます。
難聴が進行し、放置すると顔面神経麻痺や内耳への感染、髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるので、注意すべき疾患です。

原因

鼓膜の一部が内側に陥入し、上皮が中耳内で異常増殖して袋状の塊を作ることで生じます。
この塊が炎症を繰り返し、周囲の骨を破壊しながら進行するため「骨破壊性中耳炎」とも呼ばれます。
先天性のものと後天性のものがあり、慢性中耳炎が進行して起こることもあります。

治療法

薬での治療は難しく、外科的な手術によって真珠腫を完全に取り除く必要があります。
摘出後は鼓膜や耳小骨の構造の再建を行う「鼓室形成術」や「乳突削開術」が行われます。
再発することも多く、術後も定期的なフォローアップが重要で、耳鼻咽喉科専門医による管理が欠かせません。

慢性中耳炎

症状

慢性的な中耳の炎症が続くもので、耳だれ(膿など液状のものが耳から出る)を繰り返します。
耳だれはにおいを伴うこともあり、また難聴や耳鳴りが現れることもあります。
急性中耳炎が治りきらず慢性化して発症するケースも多く見られます。

原因

耳と鼻をつなぐ耳管がうまく機能せず、中耳換気が阻害されて炎症を繰り返すものです。
また急性中耳炎や適切な治療が行われなかった場合などに、鼓膜に穿孔(穴)が残り、そこから感染を繰り返して慢性化する穿孔性中耳炎や、真珠腫性中耳炎も慢性中耳炎の病態です。

治療法

感染があれば抗菌薬による治療(内服や点耳)を行い、耳だれを抑え、鼓膜の穿孔を通じて中耳腔内を洗浄するなどしますが、根本的な治療は手術になります。
鼓膜の穿孔が長く残っている場合には「鼓膜形成術」で鼓膜や耳小骨再建を行います。
耳だれがある間は耳に水が入らないよう注意が必要です。

外耳炎

症状

耳の入口から鼓膜までの「外耳道」が炎症を起こす病気です。
耳のかゆみ、ズキズキとした痛み、耳だれ、耳の圧迫感が出ることがあります。
耳に触れるだけでも強い痛みを感じることがあります。
高齢者や糖尿病の患者様では治りが遅くなることが多く、重症の場合は悪性外耳道炎と言って、細菌感染が頭蓋骨まで広がることがあります。

原因

きっかけの多くは耳掃除のしすぎによる皮膚の傷や、湿度の高い環境での雑菌繁殖による感染です。
プールやシャワー後の水分が耳に残ることも原因であることが多く、「スイマーズイヤー」と呼ばれることもあります。

治療法

感染を抑えるための抗菌薬や抗真菌薬、ステロイドの点耳薬を用います。
症状が強い場合には、外耳道を清掃し、ガーゼや綿球で薬剤を浸透させる処置を行います。
予防のためには過度な耳掃除を控えるようにしましょう。

内耳炎

症状

音を感じ取る「蝸牛(かぎゅう)」と、平衡感覚を司る「三半規管」が炎症を起こすことで、耳鳴り、難聴のほか回転性めまいなどが急に現れることも多く、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
めまいは数時間から1日程度続くことが一般的ですが、長期間続くこともあります。
感染が頭蓋骨内に及ぶと、髄膜炎、脳膿瘍など重篤な疾患につながることもあります。

原因

ウイルス感染(風邪やインフルエンザなど)や細菌感染により内耳に炎症が起きることが原因です。
まれに中耳炎から内耳に波及することもあります。

治療法

ステロイド薬や抗ウイルス薬、めまい止め、循環改善薬などを使用します。
安静にすることで改善することが多いですが、難聴が残る可能性もあるため、早期治療が重要です。
入院のうえ抗生物質の点滴や手術が必要となることもあります。

難聴

症状

音が聞き取りにくい、会話が聞き取りづらい、テレビの音が大きくなる、耳鳴りを感じるといった症状が現れます。
急激に起こるものもあれば、気づかないうちに徐々に進行するケースもあります。
加齢性の難聴では、認知症のリスクが高まることも知られています。

原因

難聴には大きく分けて「伝音難聴」と「感音難聴」があります。
伝音難聴は、外耳や中耳の異常により音の伝わりが妨げられる状態で、中耳炎や耳垢詰まりなどが原因となります。
一方、感音難聴は、内耳や聴神経に障害が起こり、音を感じ取る機能が低下するもので、突発性難聴や加齢による変化が主な原因です。
加齢性難聴は、加齢により内耳の感覚細胞が徐々に機能を失っていくことで起こり、高音から聞こえにくくなるのが特徴です。
引き金になるものとしては、耳垢塞栓、騒音曝露、ストレス、薬剤の副作用などもあります。

治療法

原因に応じて治療法が異なります。
伝音性難聴では原因の除去(耳垢除去、中耳炎治療など)を、感音性難聴ではステロイド治療やビタミン療法を行います。
加齢性難聴などでは、聴力が戻ることは難しいので、補聴器の装用を検討します。
特に突発性難聴では、発症から早期の治療が鍵です。

突発性難聴
(とっぱつせいなんちょう)

症状

突発性難聴は、ある日突然、耳の聞こえが悪くなる病気です。多くの場合は片側の耳に起こります。主な症状は以下の通りです。

  • 片耳の急な難聴(聞こえにくさ)
  • 耳のつまり感(耳閉感)
  • 耳鳴り
  • めまいを伴うこともあります

特に「急に耳が聞こえなくなった」と感じた場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが大切です。

原因

原因ははっきりとは分かっていませんが、以下のような要因が関わっていると考えられています。

  • 内耳の血流障害
  • ウイルス感染(風邪のウイルスなど)
  • ストレスや過労による体調不良

これらが内耳(音を感じ取る部分)の働きを急激に悪くし、聴力の低下を引き起こすとされています。

治療法

突発性難聴は「早期の治療」がとても重要です。発症から時間が経つほど回復が難しくなるため、できるだけ早く治療を開始する必要があります。治療には以下が用いられます。

  • ステロイド薬:炎症を抑え、内耳の機能回復を促します
  • 血流改善薬:内耳の血流を良くし、回復を助けます
  • ビタミン剤などの補助療法

入院が必要な場合もありますが、軽症では外来治療で対応可能なこともあります。

ポイントまとめ

  • 突然の難聴は「突発性難聴」の可能性があります
  • 発症からできるだけ早く受診・治療することが回復の鍵です
  • 耳の聞こえに異変を感じたら、放置せず早めにご相談ください

メニエール病

症状

発作的な回転性めまい(自分や周囲がぐるぐる回るような感覚)、耳鳴り、難聴、耳閉感が主な症状で、繰り返し起こるのが特徴です。
めまいは数十分~数時間続き、発作時には吐き気や嘔吐を伴うこともあります。

原因

内耳のリンパ液が過剰に溜まることで、内耳の圧が上昇し、平衡感覚や聴覚を司る部分に影響を与えることが原因と考えられていますが、まだよくわかっていない部分もあります。
ストレスや過労、睡眠不足も関与するとされています。
また内耳の構造や免疫の異常など先天的な要因も関わっているとも考えられています。

治療法

炭酸水素ナトリウムなどめまいや吐き気を抑える抗めまい薬や、内耳のリンパ液を調整するためイソソルビドといった利尿薬などによる薬物療法を行います。
こうした治療で効果が不十分な場合は、抗菌薬を鼓膜から注入する「鼓室内注入術」が選択されることがあります。
症状が重い場合には外科的処置を検討することもあります。
日常的に塩分制限やストレス管理を行っていくことも重要です。

耳垢塞栓

症状

耳垢が栓のように詰まって耳の穴を塞いでしまうことで、閉塞感や聞こえにくさ(難聴)、耳鳴り、時にはめまいといった症状を現します。
入浴や水泳後に急に症状が悪化することもあります。

原因

本来自然に排出される耳垢が、水分が浸透して膨張したり、耳掃除のしすぎで奥に押し込まれたりすることで排出されにくくなり、耳の中が詰まってしまう状態です。
外耳炎や体質が関わっていることもあります。
高齢者や補聴器使用者、小児にも多く見られます。

治療法

耳鼻科では専用の器具や吸引機を使って、耳垢を安全・確実に取り除きます。
耳垢が硬い場合は、耳垢をやわらかくする点耳を用いることもあります。
無理な自己処理は外耳炎の悪化や鼓膜損傷の原因になるため、専門的な処置が必要です。
高齢の方では耳垢塞栓による難聴が認知症のリスクを高めるため、定期的に検査を受けることをおすすめします。